BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark FINAL


今日、俺は何度もお願いしたよな、声を出してくれ、一緒に歌ってくれって。お前らは、お前は、大きな声で、小さな声で、もしかしたら心のなかで、歌ってくれた。俺の願いに応えてくれた。本当にありがとう。 
今日お前が、そうやって力の限り歌ったことは、今日この時のためだけじゃないんだよ。これから先、もう嫌だ、しんどい、これ以上は無理だ、もう進めない…そんな風に思う時が来るかもしれない。そういう時に、今日、お前がここで、思い切り歌ってくれたこと、生きてる証拠を刻んだことは、その歌は、苦しんでいる未来の自分を、きっと照らしてくれる。歌が未来に届けてくれる。あの時あんなに思い切り歌ったじゃないか、生きてる証拠を刻んだじゃないか、って。その時はもしかしたら俺らのことなんか覚えてないかもしれないけど。でも俺らは勝手にやってるから。 
あぁ、もう、上手く言えねぇな…こんなにしゃべるなら、歌えばいいんだな。…何やろうかな…そうだ、バンドの格好良いところ、見せてやるよ。

そう言って藤原は、自分以外誰もいないステージで一人スノースマイルを歌い出す。それを耳にした直井、増川、升は、彼の言葉を証明すべく再びステージに姿を表し、各々の楽器を手にして一人また一人と曲を彩り出す…

藤原はその日、珍しく饒舌だった。何かを伝えたくてたまらないのに、伝えきれなくてもどかしく感じている様は、デビュー当時に小さなライブハウスで饒舌に語る姿とダブって見えた。


BUMP OF CHICKENと出会ってから、もう20年にもなる。振り返ってみると私の人生は、二十歳前後でBUMP OF CHICKENと合流し、以後ずっと彼らの音楽と付かず離れず生きてきた。それが幸せなことだったのだと、今日ほど感じたことはない。

最初に聴いたのは、「リトルブレイバー」だった。当時…2000年頃、ネットで仲良くしていた友達のバンドマンから勧められ、すぐに気に入って「FLAME VEIN」を買って聴き込んだ。なんというか…まるで自分たちがスタジオで録音したような、飾り気も何もない音だった(当時私はバンドを組んでいて、就職するか迷っていた)。下手くそで、その時に削り出した音楽をそのまま聴かされてるような。でもとにかく引き込まれた。

その後、私が就職活動を終える頃には彼らもメジャー・デビューを果たし、「ダイヤモンド」がリリース。卒業と上京を控え、免許を取りに行った大分の山の中で、当時気になっていた女性と連絡を取り合いながら「天体観測」を聴き、間近に控えた上京を思って「バイバイサンキュー」を聴いた。


ほどなく上京し、最初に見に行ったスターポーキングツアー2001、そして続くSURF PORKIN'ではじめて目にした彼らは、小さなライブハウスで四苦八苦しながら下手くそなアクトを繰り返していた。

その頃の藤原は aurora ark FINAL で見た姿と同じように、伝えたいことをどうやって伝えたらいいかわからずに…いや、思うように伝えられた手応えを感じられずにステージ上でもがき苦しんでいるようだった。静かな曲に手拍子する観客をどなりつけ、突然パフォーマンスを止めては説教を繰り返す。音楽ではうまく伝えきれていない気持ちをなんとか客に伝えようと、とにかく饒舌に、拙い呼びかけを続けていた。

演奏も本当に酷いもので、音のバランスはめちゃくちゃ、ギターがやたらでかくて声はほとんど聞こえないし、苦手な曲だとリズムもバラバラ、ギターのコードも盛大に間違って不協和音を響かせる上に声も出ておらず、「うわぁ…このままだと崩壊するぞ。この曲最後まで演り通せるか…?」とハラハラしていたものだった。実際、リリース済みだがライブでは演れない曲も当時は何曲かあった。

「このバンド、ライブハウスより大きいハコじゃ絶対無理だよな…」あまりに下手くそで不安定な演奏と、説教にまみれたステージを見て、私と当時の彼女は顔を見合わせてそう語り合っていたものだった。それは音楽イベントというより、むしろ何かの宗教行事のようにも見えた。


しかしその後、天体観測を収録した「Jupiter」が大ヒットし、続く楽曲も程度の大小はありながらも着実にヒットを続けていく。歩調を合わせるように、ハコもZEPPのような大きなものに変わっていき、ホールで、メッセで、アリーナで、スタジアムで、そしてドームでとさらに巨大になっていった。あのBUMP OF CHICKENの宗教行事のようなイベントがまさかホール?アリーナ?正気ですか?

しかし当然、イベントが巨大化するにつれてプロの仕事としてきちんと制御されたステージが作られるようになり、演奏もまともに聞けるように徐々に変わっていった。同時に藤原は、ステージ上でどんどん寡黙になっていった(かわって直井がウザいMCを振り撒くようになった)。

万人が楽しめる高いクオリティのライブが多くの人に届けられるようになったのは喜ばしかった。しかし、私は感情剥き出しで説教する藤原が好きだった。セットリストがすべて終わった後も、拳を振り上げて呼べば何度でも戻ってきて演ってくれるBUMP OF CHICKENが好きでたまらなかったのだ。


そんな奇妙なアクトを繰り返す BUMP OF CHICKEN が見られなくなってしまったのは寂しかったが、それでも彼らの音楽は常に私の生活の傍らにあり続けた。
「メロディーフラッグ」「ハルジオン」「スノースマイル」「オンリーロンリーグローリー」「Fire Sign」「同じドアをくぐれたら」「ロストマン」「プラネタリウム」「銀河鉄道」「supernova」「ハンマーソングと痛みの塔」「arrows」「HAPPY」「66号線」「セントエルモの火」「angel fall」「宇宙飛行士からの手紙」「虹を待つ人」「ray」「ラストワン」「トーチ」「white note」「GO」「Butterfly」「ファイター」…
藤原の曲は洗練され、魅力的ながら荒削りだった歌詞も、ユグドラシル付近の過度な繊細さを経て、繊細でありながらも易しく、簡潔で、強く、優しいものへと変わっていった。

どこにだって一緒に行こう お揃いの記憶を集めよう
何回だって話をしよう 忘れないように教え合おう
死ぬまでなんて嘘みたいなことを 本気で思うのは
生きている君に 僕はこうして出会えたんだから
そしていつか星になって また一人になるから
笑いあった 今はきっと 後ろから照らしてくれるから
できるだけ離れないで いたいと願うのは
出会う前の傷を 僕にそっと見せてくれたから
死ぬまでなんて嘘みたいなことを 本気で思うのは
生きようとして 生き抜いた 稲妻を一緒に見られたから

私は非常に飽きっぽい性質で、一度好きになったミュージシャンでもしばらくすると飽きてしまうことが多い。ずっと聴き続け、新曲を今も楽しみにしているミュージシャンは本当に本当に少ない。BUMP OF CHICKENが届けてくれる曲を、どうしていまだに愛し続けているのか、自分でもよくわからない。でも、これがとても幸せなことだということだけはよくわかる。

多くのミュージシャンは、彼ら自身が成長し、その環境が変化するにつれて、伝えたいことが次第に変わってゆく。それが普通だ。当然だ。社会や、環境や、家族や、子供や、未来に興味を移し、結婚した後も何やらキラキラした恋愛を歌う。そうして、彼らは私の人生から離れていった。私に BUMP OF CHICKEN を勧めてくれた彼と出会うきっかけになったミュージシャンも、今はもう聴いてはいない。

しかし、藤原が歌っていることは、伝えようとしていることは、はるか昔から驚くほど変わっていない。彼が歌うのは徹底して自分自身と親しい人、それを取り巻く小さな世界だ。


aurora ark FINALに話を戻す。この日の藤原は、この日のBUMP OF CHICKENは、若い頃の彼らのアクトに非常に近かった。何かを伝えたくて仕方がなくて、それでも歌だけじゃ足りなくて、とにかく語りかけずにはいられない。アドリブの多さも群を抜いている。しかし、完成されたステージは概ねいつもどおりに進んでいく。

最後の曲「流れ星の正体」が終わり、彼らが姿を消してアンコールへの幕間が始まる。しかし当然というべきか、誰も拳を突き上げはしないし、さざ波のようにあちこちで響きながら次第にチューニングをあわせ、やがてひとつの巨大な渦となるようなコールも発生しない。誰かがsupernovaを歌っている。素晴らしいね。でも、そうじゃないんだ。いや、そうじゃないことはない。でもそうじゃないんだ。

彼らが戻ってくる。バイバイサンキュー…懐かしいよ。そして、恒例のガラスのブルース。そうだよな、最後はいつもガラスのブルースだ。…これで終わりだな。皆がステージから降りていく。藤原が一人残って何やら語りだす…これはいつもの短い謝辞じゃないな。こりゃ…昔よくやってた説教スタイルの告白じゃねーか…必死で伝えようとすると、なんでいつも説教みたいになっちゃうんだこの人は

みんな、どう反応していいかわからずシーンとしちゃってない?…あ、結局歌うんかい!歌では伝えきれずに長い長い話をしてみても、やっぱり伝えきれなくて歌うところは昔から変わってないね。ただ、そうか。そうやって、自分自身を、そして親しい人を一人にしないために、昔から歌っていたんだっけ。その気持ちは、そんなに強く、観客にも向けられていたんだな。

まだキレイなままの 雪の絨毯に
二人で刻む 足跡の平行線
そうさ夢物語 願わなくたって
笑顔は教えてくれた
僕の行く道を
君と出会えて本当に良かった
同じ季節が巡る
僕の右ポケットに しまってた思い出は
やっぱりしまって歩くよ
君のいない道を

スノースマイルが終わる。まだ足りないらしい。間髪入れず「花の名」。

いつか 涙や笑顔を 忘れた時だけ
思い出してください
迷わずひとつを 選んだ
あなただけに 歌える唄がある
僕だけに聴こえる 唄がある
僕だけを 待っている人がいる
あなただけに 会いたい人がいる

おま…むちゃくちゃじゃねーかw 直井…ルート音すら合ってなくね…?増川はコード合わせられてないし、升のリズムすらグダグダじゃねーか。あー…藤原、ごまかすためにめちゃ張り切って大声で歌ってるよ。これ、崩壊するんじゃね…?最後まで演り通せるのか…?格好いいところ見せてくれるんじゃなかったのかよ…w ほんっと面白いよなぁ。

途中からなんとか立て直した「花の名」が終わる。藤原が楽しそうに笑いながら言い訳する。私はつい大声で笑ってしまう。笑いが止まらない。本当に懐かしい。ここ東京ドームだよな?千葉LOOKかと思ったよ。モッシュやコールはなかったけどさ。

魔法のような夜でした。でも、魔法でもなんでもないんだよな。俺たちが曲を演って、それをお前らが聴いてくれる、それだけの普通の夜だ。…終わるのが寂しいよ。またすぐにやりたいけど、そんな簡単にできるもんでもないからな。だからまた何か新しい曲を作ってきます。それを言い訳にしてお前らに会いに来るよ。
…お前ら絶対に一人にしないからな!覚悟しろよ!

またいつか、こんなライブをやってくれるなら。

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