UNDERTALE:優しくも残酷にも変わり得る世界、心を映し出す奇妙な旅


UNDERTALEは、2015年に発売されたインディータイトルで、MOTHER、MOON、真女神転生といった日本のRPGに強い影響を受けた作品です。見た目は結構アレですが、インディーゲームってこういうもんです。お値段も1,000〜1,600円とお安く、気軽にプレイできます。

なお、この記事は一部ネタバレを含みます。ネタバレ前にはその旨の記載がありますのでご注意ください。



最近では「よいこのインディーでお宝探し生活」で冒頭がプレイされたので、これを機にプレイヤーが激増しているのではないかと思われます。



ゲームシステム

ぱっと見は懐かしのレトロなRPGですが、中身は相当変わっています。誤解を恐れずざっくり言ってしまえば、基本構造は2DRPG(+周回型ノベルゲーム)、バトルの一部に弾幕シューティング要素がある、といった感じでしょうか。よくわからないと思うので、もう少し詳しく説明していきます。

バトルの見た目はほとんどドラクエと同じです。しかし、ドラクエのような普通に武器で戦う「こうげき」だけでなく、会話などで敵に働きかける「こうどう」があるのが特徴です。このゲームのモンスターはすべて、うまくこうどうすることで戦う気を失うんです。そうなると敵を見逃したり自分が逃げられるようになるため、敵を倒すことなく最後までプレイすることができます。

どちらでモンスターに対処していくかはプレイヤーに委ねられており、プレイスタイルや目指すゴールによって変わってくることになります。

戦闘中に敵から攻撃された際には、突然ウィンドウが開き、プレイヤー自身がハート型の魂となって閉じ込められてしまいます。そこでは、モンスターがハート型の魂に向かって弾を撃ったり、体当たりして攻撃をしかけてきます。これを回避するのが弾幕シューティング要素ですね。自機をうまく動かして回避できればノーダメージでやり過ごすことができるわけです。

ゲームプレイ・レベルデザイン

普通のRPGと同じように、装備の更新やレベルアップでプレイヤーを強化することができ、回復アイテムもあるため、ゲームはかなりサクサク進みます。ただ、要所に登場するボスモンスターはさすがに強いので、シューティングが苦手な人は倒すのに苦労するかもしれません。普通のターンベースRPGとは違って、レベルさえ上げればボタン連打でクリアできる、というものではないので、そこは気をつけた方が良いでしょう。

ちなみに私は、ボスに会うたび3回ぐらいは死んでいました。弾避けって苦手なんですよね…。それでも、ある程度アクション系ゲームに慣れていれば3〜5時間程度あればまずはクリアまでもっていけると思います。

耳に残る印象的な音楽

UNDERTALEの音楽は、レトロなビジュアルにふさわしく、ファミコンやSFCを思わせるようなシンプルなものです。しかし、特殊なボスバトルを盛り上げるリズムゲーかのようなテンポ良いバトル音楽に加え、地下世界の悲しい歴史、プレイヤーの決意、モンスターの決意、避けられない戦闘といった印象的なシーンをみごとに彩るものでした。UNDERTALEを象徴するフレーズが、様々な場面の様々な楽曲を結びつけるように用いられ、世界を一つに結びつけることに成功しています。

シナリオ

単なる勧善懲悪ではなく、価値観の対立と和解への模索という現代的なテーマを扱ったもので、ふざけた見た目とは裏腹にかなり重いシナリオです。普通にプレイしていれば、非常に悲しい出来事も起こります。冒頭に紹介したよゐこの動画を見て、気になるならぜひプレイしてみて欲しいと思います。

↓↓↓↓↓↓以下、よゐこの動画に映っている範囲の冒頭の展開、及びゲームの流れのネタバレがありますのでご注意ください。



普通にプレイしていれば、命の恩人であるトリエルをすぐに自らの手で殺すことになります。そして、トリエルを殺めてしまったことは、プレイヤーの心に罪悪感としてずっとつきまとうことになります。アイテムを整理しようとPHONEを開くたび、「トリエルのでんわ」が目に入って心を痛めることになるでしょう。

その後は様々なモンスターと対立や対話を繰り返し、長いようで短い旅路の果てに、物語は悲劇的な結末を迎えることになります。トリエル殺害によって得たEXPとLOVEはこの世界が平和な終わりを迎えることを許さず、黒幕の一角に強く促されて今度こそ完全な和解を目指し、地下世界をふたたび辿り直すことになるわけです。



↑↑↑↑↑↑直接的?なネタバレはここまで。

↓↓↓↓↓↓ここから、シナリオ構造に関する間接的なネタバレ



90年代ノベルゲーを思わせるループ構造、シナリオ、メタフィクション

こうした流れは、90年代にはじまった周回前提のノベルゲーを思わせるものです。これらのゲームでは、初回プレイではどうやっても理想の結末を迎えることができず、ノーマルエンド・バッドエンドを迎えてしまいます。その後、プレイで得た知識を携えて二週目をプレイしなおすことで、真の結末にたどり着くことができるようになります。

二週目のプレイは当初、単なるゲームシステム上の再プレイに過ぎませんでしたが、その後は次第にセーブ・ロード・やり直しといったゲームシステム的な機能や構造が、シナリオや世界設定に取り込まれるようになっていきます。これに成功した例としては STEINS GATEが有名でしょう。こうした作品では、セーブやロードの操作はゲーム世界の舞台装置(タイムマシンや因果改変を糺す世界の理)による巻き戻しと対応づけられ、ゲームプレイの没入感をさらに高めることになりました。

さらに時が経つにつれ、セーブやロードを通じて時間軸や因果を操作するプレイヤーの行動をNPCが認識し、さらにNPCがプレイヤーの思惑を超えてゲームシステムに干渉する作品も出てきはじめます。Nitro+の「君と彼女と彼女の恋。」や近年話題になった「Doki Doki Literature Club」などがその典型でしょう。

UNDERTALEでも一部のNPCは、プレイヤーがセーブ・ロード・リセットができること、その根源がセーブファイルであることを認識しています。とあるキャラに至っては、主人公同様にセーブファイルの操作や破壊が可能です。

UNDERTALEのループを前提としたゲーム構造とシナリオへの埋め込み、メタフィクション的な語り口はこれら作品の延長線上にあると言えます。

UNDERTALEがもたらす没入感

UNDERTALEがこれらノベルゲーと比較して優れている点は、シナリオ・ルート選択をゲームプレイの中に自然に埋め込んでしまい、プレイヤーが認識しづらくしたことだと思います。在りし日のノベルゲーは、ゲームシステムとシナリオのループ構造を一体化させることでシナリオへの没入感を飛躍的に高めましたが、シナリオ分岐はあくまで明示的に示される選択肢によるものでした。また、大抵の場合はノーマルエンドクリア後でないとトゥルーエンドへの選択肢自体が発生しませんでした。

UNDERTALEのルート選択は、ノベルゲーに比べてぱっと見非常にわかりづらくなっています。一般的なRPGの作法に従うと自動的に悲劇に突き進んでしまうEXPとLOVEシステム、最序盤でゲームシステムに馴染む以前、なんだかわからないうちにトリエルを殺させるという強力な誘導、にもかかわらず悲劇を回避するためのヒントはきちんと示されていたこと…。

これらにより、半ば強制的に選ばされた悲劇的な結末に通じるプレイヤーの選択は、システムに強制されたのではなく、プレイヤー自身が選んだかのように感じられてしまいます。これによりプレイヤーは「本当ならもっと良い方法があったのではないか」「自分は何か間違えてしまったのではないか」「しかし、より良い方法がわからない」「あれで良かったかはわからないが、とにかく先に進むしかない」という後悔と罪悪感を抱えて地下世界を旅することになるのです。

やや雑な設定とプレイ続行の誘導

若干残念なのは、一部NPCがなぜゲームシステムにアクセスできるのか、という説明が欠けており、やや展開が強引&不自然になってしまっている点。

また、Nルートと呼ばれるある種のバッド・エンドに到達した際、その結末が明らかに不本意かつ誤ったものである、と強く主張しすぎている点もやや残念です。ゲームのキャラクターが周回と違った行動を取るべきであることを強く勧めてくるのです。

そうしなくては、次の周回に向かうことをあきらめ、そこで終えてしまうことを危惧したのかもしれません。しかし、このゲームは自らの選択が招く結末を自らのことと感じ、受け止められることに大きな魅力がありますその結果到達した結末が不本意なものであっても、それをプレイヤーに受け止めさせる展開であって欲しかった、そう思います。

↑↑↑↑↑↑
シナリオ構造等に関する間接的なネタバレはここまで。

あらゆる人にとってプレイする価値のある素晴らしい音楽と物語

チープな見た目やよくわからないノリで敬遠する人もいるかもしれませんが、あらゆる人に取ってプレイする価値のあるゲームだと感じます。小さな子供にとっては、愉快ながらもどこか恐ろしい童話の世界に入り込み、自分とは異なる他者が自然に存在する社会、そこに避けがたく生まれる価値観の違いを知り、それらにどう向き合うのか、自分自身の選択を通して深く考えるためのヒントを得ることができるでしょう。

心が擦り切れた大人にとっては、童心に戻って奇妙な世界を旅し、自らの合理的ながらも拙速な判断がもたらす結末を見届けることで、自身の歩んできた道を振り返ることもできるでしょう。

トリエルを殺めてしまった罪悪感、取り返しのつかないことをしてしまったという後悔、それでもとまどいながら歩んだ地下世界の旅路を私はおそらく忘れることはありません。その無念を晴らすかのように、全てのモンスターと絆を結び、高らかに鳴り響く SAVE The Worldとともに悲しい過去を打ち払って地下世界を解放した喜びと寂しさも。

コメント