袋小路に嵌まりつつあるドラゴンクエストに未来はあるか

ドラゴンクエスト11 公式ファンキットより

2017年8月に11作目のナンバリングタイトルが発売されたドラゴンクエストシリーズ。売上は総計300万本を突破し、最近のゲームの中では頭一つ抜け出ている。非常に好調に見えるドラゴンクエストシリーズだが、先行きはかなり不透明となっており、袋小路に嵌まりつつあるようにすら見える。今回は、ドラゴンクエストの売上や評価の現状と課題を確認し、取り得る手段について模索する。

この記事のまとめ

  • 堅調に見えるドラクエの国内売上も、国内市場の縮小とともに下落傾向
  • 他の有名タイトルは海外売上で補えているが、ドラクエの海外進出は尽く失敗
  • 強固なドラクエブランドの維持に貢献してきた御三家は、古臭いゲーム刷新の足かせとなりつつあり、世代交代も間近
  • 今後のブランドの維持・拡大のためには、ゲームシステムの刷新と超保守的な国内ユーザーの維持という難題を両立させる必要がある
  • このまま国内既存ユーザーとともに沈むのも有力な選択肢ではある
  • ゼルダシリーズのようにナンバリングを廃し、ブランドの下で平等に保守的タイトルと実験的タイトルを育てていくのも1つの方法だろう

大きく下落した国内売上本数

以下は、ナンバリングタイトルの国内売上本数をグラフ化したものだ。オンラインタイトルの10は除くとして、前作の9から30%減と大幅に売上を落としているのがわかる。



しかも、前作はNintendo DS単一プラットフォームでのリリースだが、今作はPS4と3DSのマルチプラットフォーム、しかもPS4向けにはUE4を用いた豪華なフル3D、3DS向けにはデフォルメ3Dと2Dのハイブリッドと、各プラットフォームのユーザーにあわせて三種類の異なるシステムを開発した結果がこれだ。

実際、発売元のスクウェアエニックスも、発売前には400万超えを期待している旨の発言があったが、発売後の結果を受け、特に3DS版のセールスが期待に届かなかったとしている。DSのみで430万売り上げたタイトルが、後継機たる3DS版で170万と実に60%も落ち込んだのだから無理もないだろう。

国内RPGのライバル的タイトルであるFF、ポケモンと比べてみよう。

Final Fantasy:壊滅的に存在感を失ったかつてのライバル

PS1でリリースされた7~8を頂点に右肩下がりが続いており、特に13-2以降の落ち込みが目立つ。これは13の評判がかなり悪く、ネットミームとなってしまった(ファルシのルシがコクーンでパージ)こと、続く14が壊滅的悪評をばらまいてしまったことが原因と思われる。



開発に10年以上を費やした最新のナンバリングタイトルである15は、全盛期から見ると70%以上売上を落としており、国内では非常に深刻な状況と言える。

ポケットモンスター:メディアミックスは好調も、国内はジリ貧

こちらも国内売上は右肩下がりが続いている様子が見て取れる。



とはいえ、リメイク(前後に比べて凹んでいるもの)を除けば、今でも400万規模で売り上げており、FFを大きく上回り、ドラゴンクエストとも遜色ないタイトルである。

ドラクエの国内販売は決して堅調ではない

これらタイトルと比べると国内では一見堅調に見えるドラクエだが、時系列をあわせるとまた見え方が違ってくる。以下は国内売上を時系列でグラフ化したもの。



全タイトルで共通して、~2010は増加もしくは横ばい、2010以降は右肩下がりなのが見てとれる。これは、スマートフォンがライトゲーマーの大きな受け皿となりはじめ、コンソールゲーム市場が据え置きを中心に縮小をはじめた時期と一致する。ドラクエが近年まで国内売上が堅調であったように見えるのは、ナンバリングタイトルが10年近く発売されていないことが大きな要因に見える。急速に凋落したFFに比べればその減少度合いは少ないが、ポケモン(リメイク除く)と大きな差は見られない。

要するに国内売上でみると、コンソールゲーム市場の縮小と歩幅を合わせる形でドラクエの売上本数も減少しているのだ。

海外を加えると大きく景色が異なる

また、近年は海外を視野に入れた開発・販売が一般的であり、日本より海外の方が売上本数が多いタイトルも珍しくない。続いて、海外を加えた販売推移を見ていこう。

Final Fantasy:海外売上が近年大きく伸長

国内では壊滅的に売上を低下させたFFだが、海外に目を向けるとその印象は大きく異なる。国内の売上の落ち込みを、かなりの部分で海外売上が補っているのが見て取れる。



国内では様々な悪評が蔓延しているものの、海外での評価は日本ほど悪くなく、良作寄りの凡ゲー(メタスコア:81)と言ったところで落ち着いている。というのも、FF15は従来ナンバリングから大きく方向性を変えており、後半を除いて一応のオープンワールド化を果たし、また戦闘もアクションに変化した。これは海外大作ゲームのトレンドに沿ったものであり、それが海外での評価につながったのだろう。結果としてセールス面では期待以上の結果を残していることから、海外を含めて考えれば十分に生き残りの目があると言える。

メタスコアはそこまで低くはない

また、FFの固定ユーザー層はかなり減っており、開発陣も初期とは完全に入れ替わり、ゲームの雰囲気やシステムもタイトルごとに異なるため、良くも悪くも縛りが少ない。次も成功するとは限らないが、手詰まりと言った雰囲気は見られない。

ポケットモンスター:海外比率は7~8割、主力は海外

海外を加えたポケモンの販売推移は次のようになる。初代の売上はさすがに別格だが、リメイク作品を除くと概ね横這いをキープしている。



こうして見ると、ポケモンの海外比率は既に70%~80%に達しており、主力市場はすでに海外であることがよくわかる。縮小する国内売上を海外でうまく補えているということだ。PokemonアニメやPokemon go、名探偵ピカチュウなどのマルチメディア展開も世界各国で行われているほか、次のナンバリングタイトルのプラットフォームは海外で不人気の3DSから最速ペースで普及しているSwitchに切り替わることから、売上の増加も期待できる。実際、Let's goピカチュウ・イーブイは国内販売は低調だが、海外販売は非常に好調だ。

ドラゴンクエスト:海外での存在感は皆無

さて肝心のドラクエだが、海外を加えるとこんな風になる。



11では海外展開に非常に力を入れたものの販売は振るわず、海外比率は非常に低いままだ。また、これから伸びる気配も見られず、既に頭打ちの気配すら漂う。

時系列をあわせたグラフに世界販売を加えてみると次のようになり、世界でみるとポケモンはおろか、国内で凋落したFFにも遠く及ばない状態なのだ。



ドラクエチームもこの点は重々承知しており、11の開発は海外での販売を強く意識していた節がある。それが強く感じられるのが、プラットフォームとして当初PS4を選んだことだ。ドラクエはこれまで国内の勝ち組プラットフォームでリリースしてきた。それを考えると、11は当然3DSでのリリースとなるはずだが、ドラクエ11の企画は当初PS4独占として開始され、その後PS4普及の鈍さから急遽3DS版が追加されたという経緯がある。PS4は海外では絶好調であり、海外販売を考慮するとPS4は最適なプラットフォームであることは疑いない。

また、開発陣からも海外のセールスを強く意識する発言が相次いだ。2018年9月に発売された海外版は、ユーザーインタフェースの刷新、音声の追加、ダッシュの追加など海外の嗜好にあわせて大幅に強化・変更されている。しかし結果としては、またもドラクエの海外展開は失敗に終わった。

全方面で行き詰まりを見せつつあるドラゴンクエスト

現段階ではまだ比較的堅調な国内売上に支えられているドラクエだが、以降も売上を維持・拡大しようと考えると、他のどのタイトルより課題が多く、もはや袋小路にはまりつつあるようにも見えてくる。売上の維持・拡大に向けてドラクエの抱える課題は、大きく次の3つに集約される。
  1. 海外売上の拡大
  2. 国内ユーザーの維持・拡大
  3. 迫る御三家の世代交代とその対応
順番に見ていきたい。

1:海外売上の拡大

まず失敗続きの海外展開だが、海外で成功したいのであれば、従来の古臭いシステムを一掃する必要があるだろう。ドラクエのナンバリングタイトルは、はっきり言えば根本的に30年間ほとんど変化していない。見た目だけはハードの進化にあわせて変化したが、中身は一本道の紙芝居ゲームとターンベースのコマンドバトルであり、特に15年前に出た8からは、解像度を除けば見た目も含めてほとんど進化した部分が見られない。

海外ではJRPGと揶揄され完全に時代遅れの日本製RPG

この間、海外のRPGは劇的に変化しており、広大なシームレスフィールド、自由な探索、豊富なキャラクターカスタマイズやビルド、アクション性の高い戦闘、数多くのNPCとの多様なインタラクションを備えるオープンワールドと呼ばれるゲームが主流となった。

その結果、シナリオ主導の一本道なゲーム体験、狭く制限のあるフィールド、カスタマイズ性の低いキャラクター・ビルド、少年が大剣で戦う非現実的かつパターン化されたキャラクターとシナリオ、アクション性の低いコマンド戦闘、決まったセリフを繰り返すNPC、おつかいクエストの山…といった従来の和製RPGにありがちな要素を備えたRPGはJRPGと呼ばれるようになり、時代遅れのゲームとみなされるようになってしまった。

一見して明らなように、ドラゴンクエストはこれらすべてに当てはまっている。JRPGはドラクエが築いたジャンルであり、ドラクエのフォロワーたちなのだから総本山たるドラクエがJRPGの定義に当てはまるのは当然といえば当然だ。ただ、こうしたゲームは海外ではもはや日本好きのマニアしかプレイしていない。海外売上を増やしたいのであれば、FFのように海外のトレンドを取り込むか、少なくとも古臭さを感じさせる要素を改善する必要があるだろう。さもなければ、また1からJRPGのファンをどうにかして増やしていくしかない。そしてそれは絶望的な道に見える。

2:国内ユーザーの維持・拡大

海外売上の拡大と相反するのが、この国内ユーザーの維持・拡大という課題だ。これは、ドラクエのユーザー層には30代以降の非ゲーマーもしくはライトユーザーの比率が非常に大きい、ことによる部分が多い。彼らは普段ほとんどゲームをしないが、ドラクエが出た時にはハードごと買ってプレイする。ここで、本エントリでの用語を整理しておく。
  • 非ゲーマー:普段ゲームをほとんどプレイしないユーザー
  • ライトゲーマー:流行したハードを所持し、気にいったゲームを散発的にプレイするユーザー
  • コアゲーマー:主流のハードを複数所持し、様々なゲームを継続的に購入してプレイするユーザー

非ゲーマー・ライトゲーマーへの配慮により成長したドラクエ

ドラクエはそもそも、海外で流行していたウルティマやウィザードリィといったRPGを日本向けにアレンジしたものだ。この際、鳥山明のポップなデザイン、すぎやまこういちの高品質な音楽に加え、堀井雄二が多くのユーザーにとってストレスなくプレイできるレベルデザインを生み出し、大ヒットした。
※ 敬称略

発売直前にテストプレイしたときの小さな違和感から、低レベルではすぐにレベルが上がるように変更するなど、ユーザーが心地よくプレイできるような修正を発売を延期してまで施したエピソードは有名だ。当時日本は子供の間でファミコンが流行しはじめた時期であり、ほとんどが非ゲーマー・ライトゲーマーだったので、この層をターゲットすることで大きなヒットが見込めたわけだ。

そして、ドラクエはそこから30年間、一貫して非ゲーマー・ライトゲーマーをターゲットにし続けた。この中でも非ゲーマー層は超がつくほど保守的で、他のゲームをほとんどプレイしないため、ゲームの進化には無頓着で、難しいシステムには強い拒否反応を示すアクションが苦手な人も多く、9で一時導入が検討されたアクション化にも反対の声が多く寄せられ、結果として断念された経緯もある。

こうして安心・安定したゲーム体験を提供することで、ドラクエは非ゲーマー層から大きな支持を得続けることに成功した。この多くが30代以降であることは当然と言えるだろう。

離れゆくライトゲーマー・コアゲーマー

しかしながら、ライトゲーマーやコアゲーマーといった他のゲームをそれなりにプレイするユーザーにとって、ドラクエは十年一日のごとく変わらない古臭いゲームとなっていった。特に、2000年代後半以降に海外から生まれたアクション性の高いオープンワールドRPGやシューターを体験したプレイヤーにとっては、ドラクエのシステムは耐え難いほど古臭く見えるようになった。

こうしたユーザーからすると、もはやドラクエは必ずプレイすべきゲームではなく、タイミングが合えばやってもいい程度のタイトルだ。彼らがドラクエを高く評価することはなく、もはやいつ見捨てられてもおかしくない。

このギャップは今後、さらに大きな問題となっていく可能性が高い。というのは、ライトゲーマーの牙城、任天堂プラットフォームのSwitchで、世界最高のオープンワールドゲームと評価されたゼルダの伝説 ブレスオブザワイルドがベストセラーとなってしまったからだ。これによって、ライトゲーマーの多くが最新のゲーム体験を知ることになってしまった。今後ドラクエが従来どおりのゲーム体験しか提供できないのであれば、彼らにも見捨てられていく可能性は高い。

新規顧客が取り込めない

低年齢層でMinecraft、Splatoon2、Fortnite、荒野行動等のアクション、シューターが流行していることも逆風となっている。これらのタイトルに比べると、 ターンベースのコマンド戦闘はゲーム体験があまりに見劣りしすぎるのだ。若年層は既にカジュアルにアクション性の高いゲームを友達と楽しんでおり、一人で長時間RPGをプレイする人はますます減ってきている。

こうしてFF・ドラクエはもはや話題に上ることもほとんどなくなっており、スライムが何かわからない子供、ドラクエを聞いたことがない子供すら出てきて、若年層での存在感の低下は深刻な状況だ。

また、Pokemon goのように幅広い年代に訴求するスマートフォンゲームもなく、近年の外伝作品が若年層の所持率が低いPS4を中心に展開されたことから、新規ユーザーの流入は限りなく細まってきている。最近ドラクエ5を元ネタとした映画化が発表されており、これはドラクエブランドの認知を維持・高めるための良い試みだとは思うが、これだけで多くの新規ユーザーを獲得したり、既存ユーザーを復帰させるのはかなり難しいだろう。

ソーシャルゲームは両刃の剣

ドラクエにとってのソーシャルゲームは、非ユーザー層にとってはドラクエというIPの認知を維持する方向に働いており、これは良い面と言える。ただ、古くからドラクエが好きなライトユーザー層にとってはIPの価値を毀損している面もある。例えば星のドラゴンクエストは、有料ガチャでロトの剣や天空剣などの伝説の武具をたくさん引き、5本以上集めて合成するゲームだ。音楽もすべて過去シリーズの使い回しであり、各種イベントでも歴代ボスが順に登場する。

このように、外伝シリーズでは音楽や歴代ボスが飽きるほど使い回され、場合によっては原作設定を破壊するようなゲームシステムもあり、もはやドラクエブランドを擦り切れさせる存在となっている面はある。

3つの課題に関する他タイトルの状況を見てみよう。

ポケモン:継続的なメディア接触で絶えず若年層を取り込み

TVアニメ、映画といったメディア展開が非常にうまく、継続的にIPと接触する環境を維持し続けている。また、本編タイトルも1年間隔でリリースしており、海外を含めて継続的に若年層を取り込み、維持し続けることに成功している。さらに、Pokemon goでシニア層にまでユーザー層を広げつつあり、結果として非常に幅広いユーザー層の支持を得るに至った

Final Fantasy:絶えずシステムを刷新することで新規ユーザーを開拓

国内での知名度・ブランドは地に墜ちたが、システム重視の海外での評価は悪くない。FFシリーズはドラクエと異なり、絶えず最新のビジュアルと画期的なシステムを模索し、変化に先駆けて対応しようとしてきた。それにより、固定ユーザー層を失う結果にはなったが、海外ユーザーへの訴求力を高め、生き延びる道を残すことに成功している。

3:迫る御三家の世代交代とその対応

最後の課題は、迫る開発陣の世代交代への対応だ。ドラクエの制作陣の柱は、ゲームデザイン・シナリオの堀井雄二、音楽のすぎやまこういち、キャラクターデザインの鳥山明から成る御三家だ。しかし、この御三家はいずれも往時のパフォーマンスを発揮できなくなり、ある意味では足手まといとなりつつある

音楽:もはやゲームの足手まといとなったすぎやまこういち

すぎやまこういちはかつて、ドラクエの魅力を何倍にも高めるような素晴らしい楽曲を提供していた。しかし、その最盛期はおそらく4-5あたりであり、以降音楽のクオリティは徐々に低下している。7までは毎度刷新されていた音楽も、8以降は徐々に過去楽曲の使い回しが増え、ドラクエ関連タイトルを多くプレイする人ほど「またこの音楽か…。」とうんざりすることが増えてきた。特に、外伝作品やスマートフォンゲーム作品では全曲使い回しのことが多く、既視感にさらに拍車をかけている。

また、新規の楽曲も品質が高いとは言い難い。過去、すぎやまこういち作品が圧倒的なクオリティを見せていた時期は確かにあったと思うが、その冴えが失われると同時に、ゲーム楽曲一般のクオリティも上がってきているのだ。しかも、他のゲームは通常、毎回ほぼ新規の楽曲が用意されている。結果として、もはや音楽はドラクエの弱点にすらなりつつある

すぎやまこういちは80を超える高齢のため、おそらくドラクエの作曲は11が最後とみられる。今後も使い回しを続けるならともかく、脱却を目指すなら後継者が必要だ。しかし、超保守的なユーザーはすぎやまこういち以外の楽曲に拒否反応を示す可能性も高い。ブランドを支える「ドラクエらしさ」は非常に厄介でもあり、世代交代を難しくしているのだ。

ゲーム体験を刷新できない堀井雄二

堀井雄二はもはやドラクエそのものと言える存在であり、彼のシナリオとテキストは堀井節とも言われ、非常に評価が高い。ポートピア連続殺人事件で名を上げたことからもわかる通り、本質的にはテキストアドベンチャーを得意とする人なのだろう。その結果、彼のゲームはいま、どう作ってもテキストアドベンチャーになってしまっている。決められたルートを順になぞり、会話やテキストに沿ってゲームが進んでいくのだ。これが、シナリオ主導の一本道なゲーム体験から離れられない大きな要因となっていると思える。

近年絶賛されたゼルダの伝説ブレスオブザワイルドのようなゲームでは、テキストだけでなくゲームプレイを通してユーザーに様々なことを伝えてくれる。こうすることで、ユーザーごと、プレイごとにまったく異なるゲーム体験が生まれ、互いに語りあいたくなり、色んな人のプレイ動画が見たくなり、何度もプレイしたくなる。

しかし、残念ながらドラクエはそういったタイトルではない。ゲームプレイはおまけのようなもので、テキストとシナリオを追うゲームになってしまっているため、語り合うとネタバレになるし、何度もプレイしたくはならないし、動画を見るとゲームをプレイする必要すらなくなってしまう。必然的に中古がショップに溢れ、初動以降は売上が激減してしまうことになる。

ドラクエの中でも、ドラクエ3だけは最近流行している要素を備えた異端児と言える作品だった。シームレスなフィールド、自由な探索、キャラクターのカスタマイズとビルドがあり、何度もプレイされ、独自のプレイ体験は、相互に語り合い、何度もプレイさせる魅力に満ちていた。堀井雄二もプレイしたゼルダや自身のドラクエ3を手本とし、次のタイトルを根本的に再構築することは一つの道ではあるだろう。

往時のらしさが失われ、アートディレクションと齟齬を起こしているキャラクターデザイン

スライムやドラゴンといった有名モンスターをポップなデザインに(勝手に)変更し、結果としてドラクエ独自の世界を生み出すことに大きく貢献した鳥山明も、もはや往時の輝きはない。最近のモンスターデザインはほとんど別人が手がけているし、キャラクターデザインもかなり変わってしまった。開発陣からの注文による部分も大きいようだが、実際、ドラクエ11の主人公のデザインはかなりの不評だ。もはやキャラクターデザインに特別な魅力を感じている人は少数派ではないだろうか。

また、これは鳥山氏の問題というわけではないのだが、アートディレクションが迷走しているように思う。Unreal Engineのアセットをそのまま使いました、という雰囲気の写実的な背景に、鳥山氏デザインのイラストチックなキャラクター。しかし、そのキャラクターはゲーム内ではソフビ人形のようにテカテカしている…。

アートディレクションがちぐはぐすぎて、まるで低予算のインディーゲームのようなビジュアルなのだ。3DS版では比較的うまくまとまっていることから、PS4版では海外向けのアートスタイルを模索したのではないかと思える。しかし、これは完全な失敗だろう。鳥山明を採用するのであれば8や10のようなトゥーン調の方が良いし、国内向けにもそれが正解だと思う。

アートディレクションだけでなくゲームデザインの面でも言えることだが、国内向けを維持しつつ海外に向けても売ろうとして中途半端になっているようにしか思えない。劇場版ではDisney/Pixarのようなスタイルを取っているが、海外を狙うならむしろここまでやった方がいいだろう。劇場はともかくゲームでこれをやると、国内では相当叩かれるだろうが…。それがこのゲームの非常に難しいところであり、袋小路と感じる所以でもある。

脱出の術はどこにある?脱出する必要はあるか?

今ドラクエが置かれているのは、利益の約束された旧来のユーザーを維持したいあまり、製品を革新できずに新製品に壊滅させられていくという、イノベーションのジレンマにかなり近い状況だ。この状況をうまく脱した例は非常に少ない。もしかしたら、無理に刷新を求めるのではなく、国内ユーザーとともに緩やかに死んでいく方が良いのかもしれない。それでもこの状況を脱するとしたらどういう方法があるのだろうか。

ジレンマの処方箋

イノベーションのジレンマを脱するためには、別の組織で全く異なる新製品を開発し、そちらがうまくいったら徐々に本体と入れ替える、というのが王道と言われている。これは、ゲームで言うなら、外伝的作品にイノベーションを取り込み、そちらが成功したらナンバリングと入れ替える、という戦略に相当するだろう。実際、ドラクエシリーズはまさにそうした試みを絶えず行っている。

本編と外伝の間に横たわる超えられない壁

外伝では、ヒーローズによるアクションRPG化、ビルダーズによるブロックメイク&疑似OW化と様々な試みをしており、いずれも一定の成功を収めてはいる。しかし、シリーズを重ねるにつれて売上が下がっていき、いずれもシリーズとして定着するには至っていない。物珍しさとブランド力で最初は手に取られるが、基本的にはイノベーターのパクリのため、それで満足してしまうのかもしれない。

また、本編の売上があまりに大きすぎるため、普通の成功では本編と入れ替えるまでの決断には至らないのだろう。結果として11にはこれらの要素が取り入れられることはなかった。外伝である程度成功しても、こうして本編は十年一日の無変化を貫いていいるため、ブランドの回復には至っていない。

ナンバリングを廃し、ゼルダの伝説方式に転換

いずれにせよ、外伝での実験を自然な形で本編に持ち込み、進化と多様性を加える必要はあるだろう。そのためには、ナンバリングと外伝の厳密な区別は足かせになる。ナンバリングは廃止し、全ての関連タイトルをドラクエブランドの下に平等に配置し、実験作と保守作を混在させる方が良いと思うがどうだろうか。

これはゼルダの伝説シリーズが取っている方式であり、ゼルダはこの方式で保守的な2Dゼルダとよりコアゲーマー向けの3Dゼルダのリリースを両立しており、2Dの実験を3Dに持ち込むなど相互作用も生まれている。

また、ナンバリングを廃止することは若年層の取り込みにも幾分かは効果があるはずだ。いくら話がある程度独立しているとはいえ、〜11とか〜15といったタイトルの作品に、若年層がわざわざ入ってくるだろうか?ドラクエに至っては11でロトシリーズと絡めてしまっており、独立すらできていない。

若年層に受け入れられるタイトルには、自分たちの世代で立ち上がったゲームであることが多い。しかし、その中でも伝統的なシリーズで受け入れられているものを見ると、マリオ、ポケモン、ゼルダなどのようにナンバリングされていないものがほとんどだ。この方式は、まるでそのタイトルが自分たちの世代のゲームであるかのように錯覚させる効果がある。

こうしてドラクエのブランドの下で保守的なゲームと並行して実験的作品を育て、適宜フラッグシップ的なRPGをリリースしていくとともに若年層を取り込んでいく方法は、一つの道になり得るのではないだろうか。

まとめ

再度内容をまとめると、次のようになる。
  • 堅調に見えるドラクエの国内売上も、国内市場の縮小とともに下落傾向
  • 他の有名タイトルは海外売上で補えているが、ドラクエの海外進出は尽く失敗
  • 強固なドラクエブランドの維持に貢献してきた御三家は、古臭いゲーム刷新の足かせとなりつつあり、世代交代も間近
  • 今後のブランドの維持・拡大のためには、ゲームシステムの刷新と超保守的な国内ユーザーの維持という難題を両立させる必要がある
  • このまま国内既存ユーザーとともに沈むのも有力な選択肢ではある
  • ゼルダシリーズのようにナンバリングを廃し、ブランドの下で平等に保守的タイトルと実験的タイトルを育てていくのも1つの方法だろう
個人的には、ドラクエが持つ魅力的な世界を貧弱なゲーム体験の付属物のままにさせておくのは勿体無いと考えている。博打的要素はあるとはいえ、次こそは海外でも受け入れられるような進化したゲームとなることを望みたい。

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